メモ IX 臆病なユダ

「世界中の臆病という臆病を集めて、二本足で歩かせたような、牝鶏のように臆病」なスメルジャコフ。去勢派は臆病者と、侮蔑されていた↓
「われらは臆病者、狡知炊けた者、破廉恥にして、腹黒い、忘恩のやから、われらは心冷ややかなる去勢者、中傷者、奴隷、愚か者…(プーシキンの詩)」…スメルジャコフそのまんま。

  • イワンの「作品」が自立する

イワンが反逆の哲学を吹き込んだ結果、無意識の殺意の実行者となったスメルジャコフ。臭い下僕で無教養で臆病者。「あれはただの下司野郎ですね。ただし、その時が来たら、最前線の肉弾ですがね」と、イワンは平然と言ってのける。
それがいつの間にか逆転するのは、現実に犯行が行われてしまった後。「あの時分ははたいそう大胆でいらっしゃったじゃありませんか。『すべては許される』などとおっしゃって。ところがどうです。そのびくつきようは!」
農奴解放後の混乱。ナロードニキ運動の必然的挫折を象徴してるんだって…知識人によって「啓蒙」された民衆が、「臆病者」の本性をあらわにした知識人を乗り越え、やがて「ただの下司野郎」の王国の実現へと向かうロシア史の皮肉への洞察(O_O)

  • ユダとの対比

・ユダは「やまならし」の木に首を吊った。呪われた木は風もないのに木の葉がおののき震える。…スメルジャコフも首を吊り、アリョーシャに知らせに行ったマリアは「木の葉のようにわなわなと震えていた」(当時の宗教的集団自殺”自己滅身”は、断食、生き埋め、焼身、投身などが通常の方法)
・ユダは財嚢を預かって、イエスの一行の会計係だった…スメちゃんは、金銭的にはフョードルの絶対的信用を得ていた。
・ユダは30の銀でキリストを売った…スメちゃん、3,000ルーブリを奪って主人の信頼を裏切った。
・ユダの「接吻の合図」…「グルーシェンカが来ました」の合図を、ドミトリーとイワンに教えた。
・ユダは30の銀を宮に投げ入れて、その夜に縊死…スメちゃん死ぬ前に、3,000ルーブリをイワンに返した。


13年後、誰かに裏切られてアリョーシャが死罪になるとするならば、同じシチュエーションになるのかな〜?…にしても(たとえ無意識でも)アリョーシャが皇帝暗殺を示唆するなんて、考えられないんだけど。ひょっとして陰謀による冤罪?そして、真相をわかってて、死を受け入れる?