草枕(蛇足)

うちのボケさん

グールドさんは漱石の何処に惹かれたか?大衆に媚びることのない芸術。西洋の「人情」に終始する「美」ではなく、自我や私欲を排除した、純客観的に物事を観察する「非人情」の立場を貫くということらしい。世俗的で自己顕示欲が強かったモーツァルトを否定的に見ていたのもそうした理由からだそうだ。


主人公の画工も、欲望渦巻く浮き世の卑しさにうんざりして山里に逃れてきたのだけれど、夢のような桃源郷にも現実の嵐はやって来る。俗世に背を向けているだけでは「非人情」は貫徹できない。美醜をそのまま受け入れて、達観する「則天去私」を身につける必要がある。漱石は、この問題を解決するのに一生を費やした…と、解説に書いてある。

  • ふたたび木瓜の花(12章)

木瓜は面白い花である。枝は頑固で、かつて曲がった事がない。そんなら真直かと云ふと、決して真直でもない。只真直な短い枝に、真直な短い枝が、ある角度で衝突して、斜に構へつゝ全体が出来上がって居る。そこへ、紅だか白だか要領を得ぬ花が安閑と咲く。柔らかい葉さへちらちら着ける。評して見ると木瓜は花のうちで、愚かにして悟ったものであらう。世間には拙を守ると云ふ人がある。此人が来世に生れ変ると屹度木瓜になる。余も木瓜になりたい。